悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。

 私はぽかーんと膝をつくブロワ伯爵を見下ろしていた。私だけでなく、お兄様もお父様も。ただ、ルーカスのみが勝ち誇ったように口角を上げ、ブロワ伯爵を見下ろしている。

「謝ってもどうにもならない。ロレンソ一家は、あなたの悪事により甚大な被害を被った。

 地位を剥奪され、街を追われ、嫌われながら生きてきた。

 あなたにはそれ相応の罰を受けていただきます。国王に今回の一件を報告し、国のやり方に従って裁いてもらいます」


 私は、ルーカスのことを乱暴者で自己中だと思っていた。だが、本当は誰よりも優しく、誰よりも他人思いなのかもしれない。今回の件だって、ルーカスの感情のままブロワ伯爵を処刑することだって出来ただろう。



 ルーカスは顔を上げ、太陽みたいな笑顔で私を見る。優しげに頬を上げたその顔に、きゅんとしてしまったのは言うまでもない。

「セシリア、良かったな。

 これで晴れて俺と結婚も出来るな」

 そうだった。私はずっとルーカスからの求婚について悩んでいたのだ。ルーカスが胡散臭いだとか性格が悪いだとか、身分不相応だとか、逃げる言い訳ばかり考えていた。
 私はこんなにも弱くてずるい女なのに、ルーカスはお父様を信じて、一人で戦ってくれていた。



 ありがとう、ルーカス。ありがとうと一言では表せないほど、ルーカスに感謝している。

 本当に……本当にありがとう!!


< 242 / 260 >

この作品をシェア

pagetop