悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。


 紅い顔で扉を閉め、私の寝室へと戻る。

 長い廊下を歩いていると、

「セシリア様」

不意に呼ばれて飛び上がりそうになった。そして、ドキドキしながら振り向くと、そこにはいつも通りのにこやかなジョエル様が立っていた。

 ルーカスと結婚が決まり、この館に越してきたというものの、ジョエル様とはあまり話していない。気まずくて、私が避けていたのだ。

 気まずい私とは反対に、いつも通りの笑顔で、ジョエル様は明るく告げる。

「ご結婚、おめでとうございます」

「あ……ありがとうございます」

 かろうじてそう答えたが、声が少し震えていた。

 平静に平静にと言い聞かせるが、やはり思い出してしまう。ジョエル様は私のことを好いてくれていたことを。結局、私はジョエル様の気持ちを邪険に扱ったのだ。

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