悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。

 私は暗い顔をしていたのだろう。

「ほら、そんな顔をしないでください」

 ジョエル様の声ではっと我に返る。すると、ジョエル様は相変わらず優しい笑みを浮かべたまま、私に告げた。

「あなたがそんな顔をしていると、僕まで悲しくなります。

 僕はあなたが幸せになるのが嬉しいですし、ちゃんと新たな恋をして幸せになりますから」



 ジョエル様は素敵な男性だと思う。優しくて、紳士的で、まっすぐで。その正義感が強いところはルーカスと同じだ。

 あの花祭りの日、ジョエル様はマリアナ様に惚れ薬を渡してしまった。だが、それをルーカスに教え、解毒薬を渡したのもジョエル様だ。
 ルーカスがマリアナ様に惚れてしまえば、ライバルがいなくなったのに。そして、そんなジョエル様を、私は尊敬している。


「幸せになってください」

 私は、そんな言葉しかかけられない。だが、ジョエル様の幸せを、心から祈っている。


< 256 / 267 >

この作品をシェア

pagetop