悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
ルーカスはブレンドティーの入ったマグカップを持ちながら、じっと私を見る。その顔はとても綺麗だが、相変わらず意地悪く歪んでいる。
「お前は俺の恋愛話を聞いて、嘲笑うのだろう? 」
「い、いえ!嘲笑うはず、ありません」
そして聞きたくない。聞かぬが仏だ。だけど、やっぱり気になってしまう。
ルーカスは再びマグカップに口を付け、ブレンドティーを飲む。そして、低い声で告げた。
「不味いな、この紅茶。どうすればこんなに不味くなるのだろうか」
興奮するルーカスを想って、カモミールなんて混ぜなければ良かった。我ながら、自分の行いを後悔する。
だが、ルーカスはブレンドティーに目を落としながら呟いた。
「こんな不味い紅茶を飲むと、またあいつを思い出してしまう。
あいつは今頃、どんないい女になっているのだろうか。また、俺にくそ不味い紅茶でも淹れてくれるのだろうか」
私はルーカスを見つめていた。
ルーカスは冗談を言っているようには見えない。むしろ、愛しそうにブレンドティーの入ったマグカップを見ている。普段の眼差しとは違う、優しげで穏やかな瞳だ。こんな表情を見ると、もしかしてルーカスは優しいのではないかと錯覚に陥ってしまう。
そして、彼はどの女のことを考えているのだろう。
……まさか、セシリアではないよね?