悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。

 ルーカスは、ロイさんに怒鳴るだろう。そして、部屋から蹴り出すかもしれない、なんて思った私は、慌てて立ち上がって連絡先の書かれた帳簿を取り出そうとする。

 だが……

「そこだ」

ルーカスは、無表情のまま棚を指差す。

「その青いファイルだ。
 その『北方領主館』に速達で便りを出しておけ」

 なんと、悪態の一つも吐かずに教えているのだ。セリオ()に対する彼とは別人のようだ。

 ぽかーんとルーカスを見ていると、

「なんだ? 」

彼は私をぎろりとも睨まない。むしろ、そんな甘い瞳で見つめられると、居心地が悪い。

 私は慌てて立ち上がり、

「お茶でも淹れてくるわ」

そう言うが、ルーカスはぎゅっと私の手を引いた。そして私は、不覚にもルーカスの腕の中に倒れ込むことになる。

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