悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
「ち、ちょっと待って、お母様……」
私の声は震えている。そして、その震える声で聞いていた。
「な、何その話!? 」
お母様まで知っているのなら、あの手紙の通り、本当に結婚の依頼があったのかもしれない。それか、トラスター公爵やルーカスを名乗る偽物から連絡があったのかもしれない。いずれにせよ、おかしすぎるのだ。
「セシリア、あなたもトラスター公爵令息から手紙をもらったでしょう? 」
お母様は嬉しそうに言うが、浮かれすぎだ。私は怪訝な顔で、お母様に告げていた。
「手紙はもらったけど……私が最後にルーカス様に会ったのは、もう八年前だわ。
それに、お父様はもう爵位を剥奪されているわ。私みたいな平民が、公爵令息と結婚するなんて、おかしな話だと思うの」
そう。詳細は知らないが、私のお父様は伯爵の爵位を剥奪された。誰かに嵌められたとお兄様から聞いている。つまり私はもう、平民なのだ。
この国には平民と貴族の結婚に関する厳密な決まりはないが、平民が貴族と結婚するなんてごく稀なことだ。ましてや相手は公爵家令息だ。周りからの反対や批判もすごいだろう。
「とにかく、私はルーカス様と結婚なんてするつもりはないわ」
どうせするのなら、好きな人と結婚をしたい。身分だけやたら高い、八年も会っていないルーカスなんてごめんだ。さらに言うと、ルーカスと結婚すると、気苦労も耐えないだろう。
私は平民なのだから、平民らしい結婚をしたい。ルーカスだって、いちいち私なんかと結婚しなくてもいいのに。もっと身分に合った、私よりもずっと綺麗な令嬢だっているだろう。
「お母様も浮かれていないで、現実を見ましょうよ」
そう言い残して、マロンを連れて家を出た。