悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。


 ルーカスと来客に紅茶を出した私に、

「おい、クソチビ」

ルーカスは話しかける。そして、不機嫌な顔のまま告げた。

「どうして普通の紅茶を出すんだ?

 俺は、さっきのクソ不味い紅茶のほうがいい」

 あなたがクソ不味いだなんて言うから出さないんでしょう。しかも、そんなクソ不味い紅茶を、来客に出すわけにはいかないだろう。

 心の中でため息をつく私に、ルーカスはイラついたように告げた。

「この紅茶は捨てて、新しいものを持ってこい。

 ……早く!! 」



 もう、本当にルーカスの言っている意味が分からない。こんなに最低な男なのだから、使用人もあきれてすぐに辞めてしまうのだろう。だが、使用人として主の指示に従わないわけにはいかない。

 私はカモミールのブレンドティーを淹れ、ルーカスと来客に差し出した。




 ルーカスは、来客がクソ不味いと言うことを望んでいるのだろうか。こうして、私の醜態を晒させることによって、ストレス解消でもしているのだろうか。だが、ブレンドティーを飲んだ来客は、目を見開いて告げたのだ。

「なんて美味しい紅茶なんでしょう。

 ほのかにカモミールの香りがして、とても気持ちが穏やかになります」

「そうか? 俺はクソ不味いと思うが」

 ルーカスは鼻で笑うだけだった。


 ……もう、本当に何なの、ルーカスって!!


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