悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
後ろを振り返り、ルーカスが追ってきていないことを何度も確認した。そして、ルーカスが追ってこないことにホッとするとともに、胸がズキズキと痛んだ。
私がいなくなっても、ルーカスは痛くも痒くもないんだ。
ルーカスが最悪な人だということは、よく分かった。そして、どういうわけか私が好きで、求婚しているらしい。
私はもちろん、ルーカスと結婚なんてしたくない。この館に潜入して、結婚したくないという気持ちはますます強くなった。
出来ることなら、この使用人の仕事も辞めて、全てなかったことにしたい。だが、お兄様に紹介してもらった仕事だ。お兄様の顔を立てるためにも、もう少し続けなければならないだろう。
でも、私はルーカスを攻撃してしまった。ルーカスは、酷く怒っているに違いない。
廊下をうろついている私は、
「君、どうしたの? 」
不意に呼びかけられた。
振り返るとそこには、ルーカスによく似ているが、ルーカスよりもずっと優しそうな男性が立っていたのだ。