悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
こんな私を見て、ジョエル様はふふっと笑った。そして、笑顔のまま告げる。
「そうでしょう? 兄上の使用人は皆、そうやって兄上に愛想を尽かして去っていくんだ。
兄上も悪い人ではないんだけどね、何しろ荒っぽいから……」
いや、兄上は悪い人だと私は思っている。デリカシーがなく、人のことを貶し続ける、嫌な男だ。
「君は兄上に謝りたい? それとも、もう使用人を辞める? 」
ジョエル様は私に視線を合わせたまま、申し訳なさそうに告げる。だが、今回の私の就職は、私のお兄様の手も借りているのだ。すぐに離職だなんて、お兄様にも迷惑がかかるため、出来る限り避けたい。
「謝りたいです……」
私は消えそうな声で告げる。確かにルーカスに手を出してしまったことは、謝らなければならない。だが、ルーカスにも謝ってほしい。そんなこと、無理に決まっているだろうが。
「そう。続けるなんて、君はなかなか度胸があるね」
ジョエル様はおかしそうに笑いながら言う。
「僕も、これ以上兄上の評判を落としたくない。だから、君が続けてくれるのは大歓迎だよ。
辛かったら、いつでも話を聞くから」