悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。


 だが、ジョエル様もさすがルーカスの弟だ。長年暴力的な兄と付き合っているため、ルーカスへの対応も心得ているようだ。

「兄上、セリオさんの提案で、近々舞踏会を開くことにしました。

 僕も婚約者を探すから、兄上も男を磨いてください」

「お前、余計なことを言いやがって」

 なんとルーカスの怒りは、ジョエル様ではなくて私に飛び火する。

 怒りのこもった瞳で睨まれ、先ほど押し倒された時の恐怖が蘇る。そして怯える私を、ジョエル様が守ってくれる。

「セリオさんを痛めつけるのなら、僕が許しませんよ?

 だいいち、自分がいい暮らしを出来るのも、使用人の皆さんのおかげです。感謝を忘れないようにと、日々父上に言われているでしょう」

 ルーカスが兄だというのに、これじゃあジョエル様が兄のようだ。ますます情け無くなる。公爵家だって、ジョエル様が継いだほうが安泰だ。


 ジョエル様は最後に、

「これ以上セリオさんを虐げたら、許しませんよ」

なんて言い残して出ていった。

 ジョエル様だって仕事で忙しいのだろう。それなのに、こんなにも私を守ってくれて感謝の気持ちでいっぱいだ。このままでは私、ジョエル様を好きになってしまいそうだ。


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