悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
ただ、ルーカスが意外すぎる発言をするから、思わず言ってしまった。
「あの……蹴ってしまって、申し訳ありませんでした」
ルーカスは一瞬、ぽかーんと私を見る。そしてその顔は、次第に意地悪く歪む。
「謝って許されるものでもないだろう。
お前は、主を蹴ったんだ。普通なら、この館から放り出してやる」
だよね……やっぱり、情け容赦ないや。
いい人だと思った私が間違いだった。
「でも、お前はセシリアの兄である、マルコスの知人なんだろう?
セシリアについての情報を洗いざらい話せば、今回のことは許してやる」
……は? どうしてそうなる!?
私はセシリアのことは何でも知っているが、情報は取捨選択しなければならないだろう。そうだ、ルーカスに、私のことを嫌いになってもらうなんてどうだろう。だから私は告げていた。
「私は、セシリアさんに会ったことはありません。ですが、噂には聞きます。
父親は犯罪者。自分は性格が良くないのに、優しい男が好き。それに、男よりも犬が好きのようです。
セシリアさんを振り向かせるのは難しいですし、ルーカス様にはもっといい女性がいるかと思います」