悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。


「ある日、食事にキノコが出た。 
 俺はキノコが大の苦手で、あんなものは人間の食べ物ではないと思っている。キノコを見るだけで吐きそうになるほどだ。

 だから俺は、大嫌いなキノコを避け、バレないようにセシリアの皿へと投げ入れた」

 ……はぁ!?

「するとセシリアは、美味しそうにそれを全部食った。

 俺は感激した。こいつ、キノコをこんなにも美味しそうに食うのか、すげーと」


 何それ……
 どんな感動話が出るのかと思ったのに、それか。

 私は心の中でため息をつく。


「またある日、俺は猛犬に襲われていた。その猛犬は俺に激しく吠えかかり、俺は噛み殺される恐怖に襲われた。

 だが、セシリアはその猛犬を、俺から引き離してくれた」


 その記憶は微かにある。だが、私の記憶の中の犬は、猛犬などではない。小さなマルチーズが、遊んで遊んでとルーカスに飛びついていたのだ。でも、ルーカスがあまりにも怖がっているのと、マルチーズが可愛すぎたため、私がマルチーズを抱っこしたのだ。

 ……なんという誇張ぶりだ。

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