悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
街へ入ると、すれ違う人が顔を歪ませて私を見た。そして、わざと聞こえるようにか知らないが、私の噂話をする。
「……ほら、また来た。ロレンソ前伯爵の娘」
「相変わらず哀れな服装ね」
わざと聞こえないふりをして、私はマロンを連れて歩く。すると、私が何も言わないことをいいことに、噂話はさらにエスカレートするのだった。
「父親が悪事を働いたのに、よくこの街に来れるわよね」
「父親の悪事ってなに?」
「お金絡みじゃない? 何しろ、あの家族は卑しそうだもの」
実際、お父様がどういう冤罪を被ったのか分からない。だから答えることも出来ないし、立ち向かおうとも思わない。お父様は十分苦しんでいるし、私たち家族が互いに信じ合っていれば十分だ。それよりここで、人々とトラブルになったほうがお父様は悲しむだろう。だから私は、何も言わずに歩き続ける。