悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
その気持ちは嬉しいが、やはり複雑だ。だって私がセシリアだからだ。
それでも、ルーカスが私のことをそうも想ってくれていたのは意外だった。そして、嬉しくも思ってしまうのだった。たとえその動機が勘違いや思い過ごしだったとしても。
「だから、舞踏会とかやめてくれ……」
ルーカスはすがるように言う。
「俺はただ、セシリアといたいだけなんだ……」
普段は気が荒くて攻撃的なルーカスが、セシリアを思ってこうも素直で弱々しくなる。その様子を見て、気持ちがぐらつかなかったと言ったら嘘になる。そして一瞬、ルーカスと結婚出来れば幸せになれると思ってしまった。
だけど、だ。私は平民だし、普段のルーカスの様子も散々だ。たとえセシリアとの恋がはじめは上手くいったとしても、いずれボロが出て駄目になる可能性も大きい。そして、ルーカスは周りから後ろ指を指され、私だって悪口を言われ続けるだろう。
二人の未来に幸せがないのは事実だ。舞踏会で、私よりもいいと思える人を見つけて欲しいと、心から思った。