悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
いつものパン屋に入った瞬間
「いらっしゃい、セシリアちゃん」
パン屋の奥さんが笑顔で迎えてくれる。
「セシリアちゃん、そろそろ来ると思ったのよ」
奥さんは笑顔でそう告げると、パンをいくつか丁寧に包んでくれた。
「今日は三本おまけしておくわ」
「そ、そんなにたくさん!申し訳なくていただけないです」
慌てて拒否するが、いいのいいのと奥さんは包んだパンを私の鞄に押し込む。そしてまた人のいい笑顔で話し続けるのだ。
「私は、セシリアちゃんのお父さんが悪い人には見えないわ。昔から優しくて評判のいい人だったもん。
私の焼いたパンも、美味しいっていつも食べてくれて……」
お父様の話なのに、自分のことのように嬉しく思う。だから、思わず頭を下げた。
「セシリアちゃん、街の人はセシリアちゃんたちのことを悪く言うけど、私はセシリアちゃんたちの味方だからね」
「ありがとうございます!」
私は笑顔でそう告げ、奥さんにお金を払って店を出た。