悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
ルーカスの切なげな眼差しを見て、胸がずきんと痛んだ。ルーカスが私を褒めてくれるのも、酔っているからだろう。だが、そんな風に思われていて、素直に嬉しかった。
「私も、ルーカス様は少しはいいかただと思っています。
仕事も出来るし、一途だし……」
素直に褒めたつもりだった。だが、ルーカスは
「喧嘩売ってんのか」
荒ぶる。
……そう。ルーカスと関わるようになって、彼の色んな面を見た。
自己中なところや、暴力的なところ。だが、時に繊細で、時に優しい。もっと色んなルーカスを見たいと思って、首を横に振った。変な気を起こしてはいけない。私とルーカスは、ただの主と使用人の関係だ。
「ルーカス様。私はそろそろ持ち場に戻ります」
これ以上ルーカスといてはいけないと思い、立ち上がって慌てて去る。なぜだか分からないが、胸がドキドキとうるさかった。
きっと、ルーカスが珍しく褒めてくれたからだ。褒められた後は必ず、貶しが来るのだから。