悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。

 街で蔑まれている私は、このパン屋の奥さんに幾度となく救われた。お父様のことを信じてくれている人がいる、それだけで酷い扱いにも耐えていけそうな気がした。



 パンとミルクを抱えて道を歩いていると、遠くで雷の音が聞こえた。夕焼け空も、どこかどんよりとしていて赤黒い。今夜は大雨だろうか。

「マロン、雨が降りそうだから急いで帰ろう」

 私はマロンのリードに入れる力を強める。もふもふのマロンは、私の横をちょこちょこと走る。



 マロンとともに走りながら、ふと思った。

 私は今でも街の嫌われ者だ。こんな私がルーカスなんかと結婚すれば、さらに嫌われ者になるだろう。そして、ルーカスも悪者になってしまうだろう。やはり、ルーカスと結婚するということは間違った選択だ。


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