悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
彼が急に甘くなって困る



 私はシャワールームで足を洗いながらため息をついた。

 脱衣場には、放り投げたスラックスとカツラ、丸眼鏡が落ちている。なんだか酷く疲れたし、ルーカスに令嬢を仕向けるのは至難の業だった。おまけに、お兄様だけいい思いをしてしまって……

 ずるい。私はこんなにも上手くいかないのに。


 鏡を見ると、久しぶりに見る長い髪の私が、こっちを見返していた。今の私は化粧っ気もなく、とても地味だ。あの煌びやかな令嬢を見た後に自分を見ると、酷く惨めな気持ちになる。こんなボロボロの私を見せれば、ルーカスは嫌いになるのかな、なんて思ったりもした。

 ルーカスだって、意味不明だ。足を洗って出直せだなんて。
 だから私は、こうやって足を洗っている。



 鏡を見て再びため息を吐いた時……不意に、シャワールームの扉がガチャガチャと音を立てた。

 私は慌てて飛び上がり、近くにかけてあったスカートを身につける。その瞬間扉が開き、入ってきたのはなんとジョエル様だった。

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