悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。


 私は下を向きながら、ルーカスに告げる。

「も、申し訳ございません」

 どうかこのまま逃げさせて。どうか気付かないでいて。

 必死に祈る私に向かって、

「……セシリア」

 彼は私の本当の名前を呼んだ。



 思わず顔を上げてしまった。だってルーカスの声は、普段私をクソチビと呼ぶその声と全然違っていたからだ。とても甘くて切なげで、普段の狂気なんて全く感じられない声だった。

 ルーカスの綺麗な碧眼と視線がぶつかる。彼は切なげに眉を寄せ、口元を歪め、頬を紅潮させている。

 そんなに感情ダダ漏れの顔で、私を見ないで欲しい。そんな顔で見られると、心が揺らいでしまいそうだ。

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