悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
フロアの隅の椅子に座り、私はルーカスと話をした。本当は話なんてしたくないのだが、ルーカスが解放してくれないのだ。
私の前に座るルーカスは、いつものルーカスと見た目は同じだ。だが、かける言葉や雰囲気など、「どちら様? 」と言いたくなるほど全然違う。
椅子に座って優しげな目で私を見つめ、
「何か食べるか、セシリア? 」
穏やかな声で言う。だから私は、
「だ、大丈夫よ。お気になさらず」
なんて言いながらも、すごくお腹が空いていることに気付いてしまった。
今まではルーカスに令嬢を仕向けないとと必死に活動していたため、アドレナリンが出ていたのかもしれない。だが、こうやって落ち着くと……令嬢を仕向けることを諦めると、どっと疲労が押し寄せるのだ。