悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
森の中を走っていると、とうとう雨が降り始めた。雷の音も大きくなり、鋭い稲光が森の中を駆け抜けた。
マロンと森の中を必死に走り、家に転がり込んだ時には、頭から足の先までびしょびしょに濡れていた。マロンももふもふの毛が濡れて、ぺちゃんと体に張り付いている。
「マロン!あなたって濡れると痩せるよね!」
なんて思わず笑ってしまった私は、
「セシリア」
久しぶりに聞くその声に呼ばれた。
私は驚いて顔を上げると、目の前には背の高い男性が立っていた。私と同じ茶色の髪に、茶色の瞳。前に会った時よりも、体つきがいくらかがっしりとしている。
「お兄様!」
久しぶりに会うお兄様に、私は笑顔で駆け寄っていた。
「お兄様、帰るなら教えてよ!」
お兄様は優しい笑顔を浮かべ、タオルを持って私に歩み寄る。そして、私の髪をわしゃわしゃと拭いてくれる。
「悪い、セシリア。帰る予定はあったんだけど、忙しくしていて連絡出来なかった」
そう言ってお兄様は疲れたように椅子に腰かけた。