悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。

「ルーカス……自分で食べられるわ」

 困ったように告げるが、ルーカスは分かってくれない。ローストビーフを私の口元に差し出したまま、にこにこしている。

 少年みたいな笑顔で私が食べるのを待っているルーカスを見ると、仕方ないから食べようかと思ってしまう。こうやって根負けしてしまった私がかぷりとローストビーフを食べると、ルーカスは嬉しそうな満面の笑みになる。

「セシリア、美味しいか? 」

「すごく美味しいわ」

 悔しいけど、もっと食べたいと思ってしまう。爵位を剥奪されたロレンソ家ではこんな美味しい料理は出ないし、使用人として公爵家で食べる食事は簡素なものだ。だからこんなにも豪華な料理、しばらく食べたこともない。

「それなら、もっと食べてくれ」

 ルーカスはまた新たな料理をフォークに取り、それを私の口元に近付ける。そしてルーカスの言いなりになりたくないのに、それを食べてしまう。ルーカスはそんな私を甘い瞳で見つめながら、口角を上げて聞いた。

「手紙、受け取ってもらえたか? 」

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