悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。




 数曲ダンスを終え、そろそろ疲れてきた私。私が疲れているのに、ルーカスも気付いたのだろう。私の手を引いてホールの中心部を去った。


 肩で息をしている私に、

「セシリアと踊れるなんて、夢のようだ」

ルーカスは甘ったるい声で告げる。

「学院の頃、ずっとセシリアとダンスをしたかった。だが、お前はいつも人気で……」

「いや、平凡だから相手に選びやすかっただけよ」

 私は苦笑いして答える。



 そう、学院時代、度々ダンスの練習があった。そして、確かに私には踊る相手がいた。だが、それは決して恋などという甘いものではない。セシリア相手だと緊張しないだとか、好きな人とは踊れないからセシリアと踊りたいだとか、そんな理由で私を選ぶ相手ばかりだった。まさかあの時、ルーカスが私と踊りたいと思っているだなんて、思いもしなかった。



「でも、一つ願いが叶って良かった。

 これから俺は、一つ一つセシリアとの願いを叶えていきたい」

 ルーカスはそう告げ、頬にちゅっとキスをする。私はルーカスがキスした場所を押さえ、また真っ赤になるのだった。



 このままルーカスといると危険だ。

 ルーカスは予想以上に本気で、予想以上にぐいぐい迫ってきて、そして予想以上に好きになってしまいそうだ。私はこれ以上、ルーカスにきゅんとしたくない。

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