悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。



「それじゃあ私……」

帰るね。そう言ってそそくさと去ろうとした時だった。



「君がセシリア嬢?

  さっき、シャワールームにいたかたですね」

 笑顔で私に歩み寄ってきたのは、なんとジョエル様だ。ジョエル様の後ろには、目をハートにした令嬢が連なっている。ルーカスが無愛想であるだけに、ジョエル様は大人気だ。

 そして私は、ジョエル様を見てビクッとする。私がセリオであることは、バレていないだろうか。ここでセリオだとバレてしまったら、一貫の終わりだ。

「……シャワールーム? 」

 ルーカスは怪訝な顔で私を見る。それで私は反射的に吐き出していた。

「あっ、足を洗いに行っていて!」

 そして、慌てて口を塞ぐ。

 私としたものが、やってしまった。ルーカスが足を洗って出直せと言うから、私は足を洗いに行ったのだ。背中がゾゾーッとした。


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