悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。

 だが、ルーカスは不思議そうに首を傾げたまま言う。

「そういえばクソチビ、見ないな。

 あいつまさか、俺が足を洗って出直せと言ったから、本気で足を洗ってるわけないよな? 」


 飛び上がりそうになる。


まずい、これはまずい。そして、私は本気で足を洗っていたのだが。


「セリオさん、お兄様に怒鳴られすぎて、どこかで泣いてるんじゃない?

 それか、今日を持って退職するとか」

「……マジか。クソチビ、いい奴だったのにな」

 ルーカスは残念そうに言う。そんなルーカスを見ながら、セリオ()のことを嫌いではないのかと驚きを隠せない。あの悪魔なような対応をするから、ルーカスはセリオ()が嫌いなのかと思っていた。

 いずれにせよ、はやくセリオ()の話題をやめて欲しい。セリオ()の話をすればするほど、私がセリオ()だとバレてしまいそうで怖くなる。



 そんななか、

「セシリア!こんなところで何してるんだ!? 」

また新たな声がした。

 いつの間にか近くにはお兄様がいて、お兄様は驚いた顔で私を見ているのだった。
 


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