悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
「でも私……遠くで見物しているだけでいいわ」
私はぽつりと告げる。
「私は平民だし。私なんかがいると、周りの人たちも嫌だろうし」
ルーカスがいくら私を呼びたいと言っても、立場という壁がある。それに、私は平民というだけでなく、犯罪者の娘だ。もちろん、お父様の無実を信じているのだが。
「そんなの関係ない!! 」
ルーカスが不意に大きな声を出すから、思わずビクッと飛び上がってしまう。ルーカスは私の言葉にイラッとしたのだろう。いつもの乱暴者のルーカスを思い出させるような、大きな声だった。
だが、少し怯えた顔をした私を見て、ルーカスはぐっと口を噤む。そして、静かに告げる。
「俺がお前を呼びたいんだ。……分かってくれ」
ルーカスなのに。乱暴で自己中なルーカスなのに。演技でもそうやって優しくされると、コロッと落ちてしまいそうになる。セリオに対する態度を思い出し、この人の本性は違うと必死で言い聞かせる。
「セシリア」
甘く優しい声で名前を呼ばれる。
暗闇で私を見つめるその瞳が、きらきらと光を反射して柔らかく輝いている。
「好きだ。……ずっと好きだったんだ」
ルーカスは、消えてしまいそうな声で囁いた。