凄腕な年下外科医の容赦ない溺愛に双子ママは抗えない【極上スパダリ兄弟シリーズ】
 今考えると、ひとりで産もうなんて無謀だった。家族のありがたみを日々感じている。それでも、やっぱり双子が寝て静かになると、愛するあの人の顔がフッと浮かんでくるのだ。
 本当なら私の隣には彼がいたのにって――。
 一度たりとも彼のことを忘れたことはない。忘れられるわけがない。
 私を愛してくれた、この世でたったひとりの人――。
『薫さん』
 私を呼ぶ優しくて、甘いその声。
 目の前にいなくたって、頭の中で聞こえる。
 会いたくて、会いたくてたまらない。
 出会った日のことだって、何度も夢に見るのだ。
 あれは十カ月前のこと――。

「結婚おめでとう。幸せになってね」
 披露宴が終わり、招待客を見送る花嫁をギュッと抱きしめる。
 神戸のとあるホテルで行われた結婚式に私は出席していた。
「次は薫の番よ。きっと薫だけの王子さまが現れるわよ」
 親友である花嫁は優しい笑顔でそんな言葉を口にしたけれど、私には一生そんな人は現れないと思った。
 私は月城薫、三十二歳。独身で彼氏もいない。背は百六十五センチで瘦せ型。自慢は腰まである天然のベージュカラーの髪で、皆綺麗だと褒めてくれる。
 日本一の商社である『AYN商事』で会長秘書として働いていて、仕事面では毎日充実しているけれど、プライベートは寂しいもの。大学時代に付き合った彼に浮気されて以来、ずっと恋人はいない。
 その苦い恋の経験からすっかり臆病になってしまって、友人に合コンに誘われてもすべて断っていた。まあ、そもそも元彼と出会ったのも合コンだったから、もうそういう出会いは懲り懲りだったのだ。
 就職してからも、周りの友達は恋人がいるのに、私はひとりぼっち。そんな寂しさを紛らわすように、漫画にのめり込んだ。
 二次元の世界はいい。だって私のお気に入りのキャラは顔もよくて優しくて、それに文武両道で、ヒロインを溺愛する。すべてにおいて完璧で、絶対に愛する人を裏切らない。
 素敵だと思った人は会社にひとりだけいたけれど、結局縁がなくて、漫画が私の恋人という日々が続いている。

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