凄腕な年下外科医の容赦ない溺愛に双子ママは抗えない【極上スパダリ兄弟シリーズ】
「……嫌」
 俯いて弱々しい声で抵抗すると、突然男性が「痛てて!」と呻いた。
 なにが起こったの?
「彼女、嫌がってるじゃないか。警察を呼んでもいいんだぞ」
 よく知った声がして顔を上げたら、横にAYN商事の副社長がいて、男性の手を捻り上げている。
 ――綾小路悠。
 彼がここにいるのが信じられなくて、何度も目を瞬いた。
 百八十五センチの長身。サラリとしたダークブラウンの髪に、綺麗な栗色の瞳。俳優顔負けのビジュアルは美しくて気高く、そこにいるだけで圧倒的な存在感がある。オーダーメイドの濃紺のスーツを身に纏っている彼は、洗練された大人の魅力に満ちていた。
 アメリカ出張中の副社長がどうしてここに?
 頭の中は?だらけ。
 私が呆気に取られている間も、緊迫した状況が続いている。
「俺はただ彼女が心配だっただけで……」
 私に言い寄ってきた男性が怯えながらそんな言い訳をすれば、副社長が凄みのある眼光でその男性を睨みつけた。
「失せろ」
 冷ややかに告げて副社長が手を離すと、男性はそそくさとこの場を逃げ去った。
「大丈夫ですか?」
 私を気遣うように副社長が声をかけてくるが、なにか様子が変だ。まるで見知らぬ人に話しかけるみたい。会長秘書の私を知らないはずはないのにどうして?
 不思議に思っていると、彼が私の顔を覗き込んできた。
「あの……大丈夫ですか?」
「あっ、はい。大丈夫です」
 毎日お顔を拝見するけど、こんなに接近したのは初めて。
 彼を見つめ返して慌てて取り繕うが、心臓はドッドッドッと激しい音を立てている。
「ちょっと顔色が悪いですね。すみません、水をください」
 副社長は近くにいた店員に声をかけると、着ていたジャケットを私にかけた。
「その格好では冷えますよ。気分が悪いですか?」
 彼にそう言われて初めて身体が冷えていることに気づいた。
 今着ているのは、ラベンダー色のドレス。ボレロを上に羽織っているとはいえ、結婚式用のドレスで生地は薄い。

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