凄腕な年下外科医の容赦ない溺愛に双子ママは抗えない【極上スパダリ兄弟シリーズ】

「大丈夫です。ジャケットはお返ししま――」
　ジャケットを返そうとしたら、止められた。
「着ててください。とりあえず水を飲んで落ち着きましょう」
　まるで病院の先生のような口調で言われ、「はい」と素直に従う。
　ゴクッとひと口水を飲むが、まだ頭は混乱状態だ。
　カクテルで酔ってしまったのだろうか？　それとも、変な夢でも見ているの？
「あの……副社長がどうして神戸に？　出張でアメリカにいるはずでは？」
　思い切って副社長を見据えて尋ねると、彼が微かに笑った。
「ああ。ひょっとしてＡＹＮ商事にお勤めですか？」
「……はい」
　毎日顔を合わせているのに、なぜそんなことを尋ねるのだろう。
　思わぬ質問をされ、ためらいながら返事をした。
「よく間違われるんです。僕は綾小路悠の双子の弟の涼と言います」
　彼がスーツの内ポケットから名刺を出して、私に手渡す。
　そこには【Ｍ大学病院　心臓血管外科　准教授　綾小路涼】と書かれていた。
　会長の通ってる病院で医師をされているのか。この若さで准教授なんて、すごいエリートなんだろうな。
　副社長に双子の弟がいるのは知っていたけれど、すっかり忘れていた。
　ううん、もう酔いが回ってきて、頭が働かないのかも。まさか副社長の弟に会うなんて思わなかった。
　そういえば、副社長はメガネをしているのに、今目の前にいる弟さんはしていない。それに前髪も下ろしている。
「副社長の弟さんだったんですね。すみません。間違えてしまって。私はＡＹＮ商事で会長秘書をしている月城薫と言います」
　恐縮しながら謝って私も自己紹介すると、彼がなにか納得したような顔で相槌を打った。
「ああ。あなたが薫さん。義姉から優しい先輩だって話をよく聞いているんですよ。綺麗なのにとってもかわいい人だって」
　彼の言葉を聞いて、慌てて否定する。
「ぜ、全然そんなことありませんよ」