彼は意地悪なボイスアクター〜独占欲の強い彼に溺愛され狂いそうです〜
また危険な恋愛に足を突っ込みそうになっている。

この男に関わってはいけない。

そう思っていたのに…



私は那原(なはら)さんと映画館に来ていた。


な、なんで手をつなぐの?


隣から伸びてきた長い指。

私は顔を上げることが出来ず、じっと動く指先だけを見ていた。

こちらが抵抗しないことをいいことに、その綺麗な指は私の指の間に割って入ってきた。

そして、私の手をしっかりと掴む。


いや、だからなんで……


まったく映画に集中できない。

慌ててスクリーンを見たが、主人公の女の子が泣いている。

なんで主人公が泣いてるのか、もうわからない。


そんなことを考えていると、耳に息がかかった。


「抵抗……しないんだね。それは嫌じゃないってことで良いのかな」


小声で少しかすれた那原さんの声は腰に響く。

顔が一気に熱くなった。

恥ずかしいのと耳がくすぐったいので、身体をよじる。


絶対に顔を見てやるもんか。


それだけが、わずかな抵抗だった。


「何?もしかして耳弱いの?」


そう言うと最後にふっと息を吐かれた。


「は……」


思わず変な声が出てしまい、慌てて繋がれていない方の手で口を押さえる。

その際に那原さんを見てしまった。

ばちっと目が合うと彼は頬杖をついてこちらをニヤニヤしながら見ていた。

私はさすがに手を振りほどく。

そのあとのことはほとんど覚えていない。


早く終われ!とだけ願いじっと時が流れるのを待った。

心臓がばくばくしているのが、わかる。


もう内容が頭に入らず、この映画はいつ終わるのだろうかと、そればかり考えていた。

ようやくエンドロールが流れて、私はすぐに席を立った。
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