彼は意地悪なボイスアクター〜独占欲の強い彼に溺愛され狂いそうです〜
俺を指さし、その指先をトンボの目でも回すように、くるくる回しながらニタニタと笑った。


「プライベートで悪いこと、してるんじゃないの?」

「してませんよ」

「女関係派手なんじゃないの~」


まったくしつこいな。
俺は笑顔を向けて言った。


「はははっいや~バレました?」


こう言っておどけて、やり過ごすのもだいぶ慣れた。
俺はサングラスを返してもらい、再びかけ直した。
視界が少しだけ暗くなる。
サングラスをしている理由は人と話をする時「目が死んでる」とよく言われるからだ。
テンションと表情があっていないことがあるらしい。


「その声で、その顔だったら、女の方から勝手に寄ってくるでしょ」

「そうっすね~」

「わ~否定しないよ、この人!」


そんな下品な話をしていた時だ。
突然、女の怒号が聞こえた。


『あんた、入社早々、人の旦那取るってどういう神経してんのよ!!』

「え?なになに?」


笹田が何事かと部屋を出て、及川や他のスタッフも続いた。
残ったのは数名の女性スタッフとマネージャーと俺だけ。
何かの撮影でもしてるだけじゃかいか? と思っていると及川が青ざめた顔で戻ってきた。


「どうしたんですか?」

「い、いや……な、なんでも」


明らかに動揺している。
その時、笹田が言った。


「及川さん、あの女の人って、奥さんじゃないっすか?」


こいつ、結婚していたのか。
やたらと周りの女性スタッフに馴れ馴れしくしてるから独身かと思っていた。


「え? そ、そう? 似た人じゃない?」

「よく見てくださいよ。ほら」


そう言って笹田は及川を再び連れて行った。
及川はへっぴり腰で恐る恐る階段の下を覗いていた。


「ひっ」


そしてすぐにまた、こちらに戻ってきたのだ。
いったい何が起こっているのかとさすがに興味をもった時だった。

部屋に女が一人入ってきて、及川を見つけるとオレンジの液体をかけた。
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