彼は意地悪なボイスアクター〜独占欲の強い彼に溺愛され狂いそうです〜
収録が終わりスマホを見ながら廊下へ出た。

次の仕事がすぐに入っているので場所の確認だ。

その時、誰かがさっと目の前を通って行く気がした。

数秒遅れで振り向いた時にはもう誰もいなかった。


「那原さん、今日の夜って空いてます?」


後ろから女性声優が声をかけてきた。


「あー今日は先約があるんですよ」


本当は何もない。


「そう……あ、そうだ」


彼女は鞄の中のゴソゴソとあさる。

俺はつい面倒そうな表情になった。

きっと連絡先の交換だろう。

案の定、鞄からスマホを取り出し、にんまりと笑う女性声優。


「那原さん、連絡先……って、あれ?那原さん?」


危ない、危ない。俺は間一髪、その場から逃げた。

仕事で関わらない女なら良いけど、仕事関係の女とは面倒だ。

「もう!また逃げた!」

女性声優の声が聞こえた。

彼女には何度も連絡先を聞かれている。

その度にスマホ持ってないのでと言っていたが先月、持ってることがバレた。


「ちっ」


俺はエレベーターと反対側に来てしまったことに気付いた。

仕方なく少し隠れてからエレベーターに向かうことにした。

「ん?」

その時だ。俺は何かを踏んだ感覚があり、足元を見た。

「これって」

拾い上げるとそこにはリーガルのアクリルキーホルダーがあった。

「マジ?」

自分が担当しているキャラクターのキーホルダー。

なぜ、こんなところにあるのだろうか。

スタッフが落としたのか。

まだこのゲームがアニメ化されることは世の中に知られていない。

だからここでの収録も秘密裏に行われているはずだ。

スタッフもそこまで多くないし、スタジオにポスターも貼られていなかった。

「なんだか俺が届けるのもな」

そんなことを思っていた時だ。

床を見ながら誰かが探し物をしているのが目に入った。

あの人か。

そう思って俺はアクリルキーホルダー摘み、渡そうと近づいた。

「あれ?」

俺は思わず隠れた。

あの顔に見覚えがある。

いったい誰だっただろうか。
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