彼は意地悪なボイスアクター〜独占欲の強い彼に溺愛され狂いそうです〜
「1階ですね」

彼女は明らかに動揺しているのが見える。

もしかして俺のこと、覚えているのだろうか。

確か、あの時は思わず笑ってしまい睨まれた記憶がある。

今は室内でサングラスをするようなことはほぼないが、あの時期は何処でもサングラスをしていたはずだ。

ただ、あの一瞬で覚えているものだろうか。


「俺の声に聞き覚えがあるの?」

「え?」


声をかける度に背が震えた。

これは絶対に覚えている。

久しぶりに楽しいと思ってしまった。

自然と口角が上がる。


「そう……なんか驚いていた気がしたから」


やっぱり面白い女だな。


「ちょっと知り合いに声が似ている気がして。でも勘違いでした」

「ふーん」


俺は楽しくなり、彼女に近づいた。

彼女の背中が何かを察したように揺れたが、振り返えらない。

抵抗されると余計にゾクゾクする。

俺は前屈みになり、小声で言った。


「……たぶん君が想像している人であってるよ」



エレベーターが3階に着いたが彼女は動かない。

どうやら、硬直してしまったようだ。

俺は手を伸ばし開くのボタンを押す。

自然と彼女に密着する形になってしまう。


「着いたよ、降りないの?俺としてはこのまま一緒に乗ってても構わないけど」

彼女は勢いよくエレベーターを降りた。

その姿が可笑しくて笑ってしまう。

最後に俺の方を振り返ってきたので、彼女を見つめた。

「残念だなぁ」

扉が閉まる寸前の彼女の表情が7年前の表情と重なる。

これは怒りか?

俺は1階に降りポケットに手を突っ込んだ。

硬い物があたる。

取り出すとそれは拾ったキーホルダー。

「そうか……」

彼女がこれを探していたのなら、驚いたのは俺の声ということか。

なんだか、楽しくなりそうな予感で胸が躍った。
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