彼は意地悪なボイスアクター〜独占欲の強い彼に溺愛され狂いそうです〜

残業中

「お疲れ様。残業してく?」


次に桃子さんに声をかけられたのは18時をまわった時だった。


「はい。結構たまってて」

「あまり無理しないでね」

「はーい」


21時までには帰りたいなと思って時計を見る。

私がいるこの部屋は一部がガラス張りになっていて報道フロアが遠くに見える。

そこは電気がついているが他は消えていた。


「よしっ」


集中してやってしまおうと思ったその時、ドアをノックする音が聞こえた。

振り返るとドアに寄りかかるようにリーガル様の中の人が立っていたのだ。


「なんでここに?」

「3階で働いてるって言ってたから」

「何しに来たんですか?」


すると人差し指に引っかけたリーガル様のキーホルダーをゆらゆら揺らしながら私に見せつける。


「それ!」

「やっぱり落としたの君?」


私は急いで駆け寄ったが、さっとキーホルダーを隠された。


「え?返しに来てくれたんじゃないんですか?」

「ちょっと付き合ってよ」

「は?」

「ドライブしよ」


この人はいったい何を言っているのだろうか。

私は咄嗟に危険な匂いを感じて席に戻った。


「私、仕事があるので」

「待ってるよ」


そういうと部長の席に座った。


「ちょっと部外者が勝手に入らないで下さい」


すると首にかけたカードを見せて彼は言う。


「関係者だよ~」

「ここの社員ではないでしょ」

「早く仕事しなよ」


あまりにも、遅くなるのなら勝手に帰るだろうと思って私は放って仕事に戻った。

しかし……

「ねぇ……ここの仕事って楽しいかい?」


この人、わざと!!

敢えてなのか地声なのか、わからないがリーガル様の声で話しかけてくる。

しゃべり方もそっくりで反応しそうになった。


「無視しないでよ~無視するとそっちに行っちゃうよ?」

「来ないで下さい」


たまに人が通ると不思議そうに私と彼と交互に見る。

私はこのままではダメだと思って残業するのを諦めた。


「帰りましょう」


ニコッと無言の笑顔。

かっこよすぎて倒れそうになる。

私たちは駐車場まで降りた。


「話があるんですよね?」

「まあ、車に乗ってよ」

「見ず知らずの人の車には乗れません」

「那原隼司。職業声優」


私はそう言われてドキッとしてしまった。


「名前・・・教えて良いんですか」

「教えたんだから乗ってね」


我に返る。

さすがに乗るわけにはいかない。


「キーホルダーはもう捨てて良いので」

「捨てるなんて酷いこと言うな~」
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