彼は意地悪なボイスアクター〜独占欲の強い彼に溺愛され狂いそうです〜
私はそのまま後部座席に乗り、那原さんは運転席に乗り込んだ。

彼は私の事情を何も聞かない。

「さ、さっきの人たちとは知り合いなんですか?」

「ああ、今やってるアニメの副音声のディレクターの1人だよ」

そうなのか。

私は胸がザワザワしたが彼は流れる音楽に合わせて鼻歌を歌っている。

この人の目的はいったい何なのだろう。

「いったい私になんの用があるんですか?」

「ちょっと君に興味があってさ」

「興味?」

「どうする?食事でもする?お腹すいてるでしょ?」

「食事・・・」

正直、男性と食事を取りたくなかった。

まだ、それは拒否反応を身体が示している。

「私、お腹すいてないので」

するとタイミング悪く盛大にお腹がなった。

私は急いでお腹を押さえるが、さらに鳴り続けるお腹。

「ぷっ」

那原さんが吹き出して笑う。

「言葉と身体がアベコベだね~」

私はむすっとしたまま顔を背けた。

「じゃあ、食事はやめよう」

すると那原さんは夜景が見える公園に車を止めた。

「ここなら人も多いし、良い具合に暗いし、いいでしょ」

人も多いっつたって、カップルだらけだ。

私たちは車から降りてベンチに座った。

「ちょっと待ってて」

そう言って那原さんは居なくなった。

この間に逃げてしまおうか。
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