彼は意地悪なボイスアクター〜独占欲の強い彼に溺愛され狂いそうです〜

那原side

嫌な予感が全身を駆け巡った。
救急車がすれ違う。
事故現場が露わになった。
俺は背中に汗がじわっと出てくるのがわかった。


「ひどいですね」


彼女がそう言ったが俺は声がでない。
やばい、誤魔化せない。
息が苦しくなっていく。

俺は見てはいけないと思いながらも目に入ってしまった光景に愕然とした。
ひっくり返ってる1台の車がそこにあった。

俺は目の前に30年前の記憶が蘇る。

「おかあさん！おかあさん！」

反転した車の中で母親はぐったりしていた。
母に触れようとするが届かない。
自分の手に生暖かいものが触れた。
母から大量の血が流れ出てこちらにきていた。

「ほら！こっち！」

恐怖で声が出ないでいると後ろから大人たちが俺を引きずりだした。
俺はぐったりした母を黙ってじっと見ていた。


俺は早くこの場から離れたいと思いハンドルに手をかけた。


「あ！ちょっと、そこに止めてもらえますか？」

「え？な……なんで？」