彼は意地悪なボイスアクター〜独占欲の強い彼に溺愛され狂いそうです〜

事故現場

「どうしました?」

よく見ると那原さんは震えていた。

「な……はら……さん?」

どうしてしまったのだろう。
わずかに顔をあげた那原さんが目に入った。
さっきまでの余裕のある顔はなくなり、大量の汗をかいて震えている。
ハンドルを那原さんが強く握りしめた。


「那原さん、私が運転代わりますので、この場所から離れましょう」


私は那原さんを運転席から引き剥がして後部座席に乗せた。
彼はうずくまり、まだ震えている。
その顔は真っ青で焦点があっていなかった。
私は運転席に座った。


「住所、教えて下さい」


しかし那原さんは応えない。
どうしたものかと悩んだ。カーナビをあさると、よく行く場所にマンションが表示された。
最近のカーナビは頭が良いなと感心しながらも、とりあえず、そこへ向かった。
バックミラーで那原さんの様子を見るが変化はない。


「病院、行きますか?」
「いい」


ようやく声が聞けて安心した。
しかし、その声は何処か苦しそう。
マンションに着いたとき、那原さんが鞄に手を伸ばしていた。


「鞄ですか?」
「く、くすり」


私は鞄をあけて薬の袋を見つけた。
それは最近、病院でもらった薬のようだった。
持病でもあるのだろうか。
そこには心療内科の文字。


「これでいいですか?」


そう言うと小さく頷く那原さん。
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