彼は意地悪なボイスアクター〜独占欲の強い彼に溺愛され狂いそうです〜
私はすぐさま自販機に走り、水を渡す。
那原さんはこぼしながらも水を含み、薬を飲んだ。
しかし、まだ体調が悪そう。
車をどうしようかと悩む。
このまま、ここにいるわけにはいかないし。

「駐車場の場所、何処ですか?」

「1階の……」

私は何とか那原さんに言われた場所に車を置いてマンションの中へ那原さんを支えながら向かった。
幸い誰にも会わずに部屋までたどり着いた。
玄関先で那原さんが座り込んでしまう。


「もう、大丈夫……はぁはぁ……ありがとう」

「大丈夫には見えないんですけど」


私はしばらく汗だくの那原さんを見つめた。
胸のところが大きく上下している。
いったいこの人に何があったのだろう。


「もう1度、頑張ってください」


そう言って私は那原さんの腕を肩に回した。


「失礼します」


家の中に入り、さすがに寝室に入るのは躊躇したので、大きなソファに那原さんを運んだ。
那原さんが片腕で目を覆って仰向けになる。


「じゃあ、私、帰りますね。ここに連絡先だけ置いておきます。もし何かあったら電話してください。かけつけるので」


そう言ってメモ用紙に電話番号だけ書いたテーブルの上に置いた。
その際にテーブルの上の数本の台本を見て、本当に声優なんだと思った。


「では」


私が去ろうとした時、腕を掴まれた。


「え?」


そしてそのままぐっとひかれた。


「ちょっと」


そのまま私は倒れこんでしまう。
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