彼は意地悪なボイスアクター〜独占欲の強い彼に溺愛され狂いそうです〜

那原の過去

俺は病院を訪れていた。

「それで、発作が出たと?」

「はい、もう少し強めの薬を出してもらえませんか?なんか、咄嗟の時にすぐ効くような」

「あれ以上、強くしたら身体によくないです。それよりカウンセリングを受けてトラウマを無くしていきませんか?」

「いや、それは」

「なんでカウンセリングを拒否するんですか?」

「心を他人に覗かれたくないんですよ」


俺は5歳の時に母を亡くした。
母は唯一の肉親だった。
未婚の母だったので父親の顔は知らない。
母は男をよく家に連れ込んでいた。
しかし母はすぐに男を変えていた。
半年もったら良い方だ。
その男たちのおかげで俺はご飯が食べられたのだと思う。
あるとき、母が居ないときに男がやってきた。
その男は新しい母の彼氏ではない。
前の前の男だった。
母のストーカーだった。
この男はつきまとうだけで何もしてこない。
しかし俺に接触したことで母は警察に相談した。
そのすぐ後だった。
買い物に行った帰りだった。俺は後部座席のチャイルドシートに座っていて母が運転をしていた。

「今日はね、しゅんくんの大好きなハンバーグ作るからね!」

そんなことを言った瞬間だった。フロントガラスに大きな塊が見えた。
目の前がぐらついた。車は一回転した。
反転した中で母を探した。

「ママ……」

突っこんできたのは黒のワゴン車。母のストーカーが運転していた。
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