彼は意地悪なボイスアクター〜独占欲の強い彼に溺愛され狂いそうです〜
思い出すだけで吐き気がする。
母は即死だった。
犯人の男も病院で亡くなった。
俺は誰に怒りをぶつけて良いのか、わからなかった。
そのあと、葬儀では疎遠だった親戚達が母の子とを自業自得だとか男関係が派手だったとか好き勝手言っているのが聞こえた。
確かにそうかもしれないが、俺にとっては大切な唯一の家族だ。
その家族を一瞬にして奪われたことが悔しい。
俺は施設で育ち、高校卒業後、声優の道へ進んだ。
当時、時間があると思い出す母の事故のことを思い出さないように見ていたアニメがあった。その影響だろう。
自分ではない、何者かになりたいと思った。
新人の頃は仕事を選べない。

「お前はアイドル声優を目指せ」

そう言われた事務所を辞めた。
今、お世話になっている個人事務所になんとか採用してもらい、そこではメインではない吹き替えやアニメのちょっとした端役の仕事をしていた。
同期がやめていく中、俺が最後まで残った。これだけでは食べていけないのでアルバイトもたくさんした。

幸い、交通事故の現場に居合わせることはこの歳までなかった。
ちょっとしたパニックが起きることがあるので薬はずっと保険として持っている。
しかし、まさかこのタイミングで自分のトラウマが再発するとは思わなかった。
薬は眠気が起きるだけで俺の心臓はバクバクとうるさいくらい嫌な音を立てていた。
苦しくて息ができなかった。
でもあの女の胸に抱かれている時だけは何故か安心した。
< 47 / 50 >

この作品をシェア

pagetop