彼は意地悪なボイスアクター〜独占欲の強い彼に溺愛され狂いそうです〜
私がジーッと頭上を見ていると耳元で叫ばれた。


「ちょっと!何、黙ってんのよ!私に言うこと、あるでしょ!」


謝らなければと思って及川さんの奥さんを見た瞬間、顔を勢いよく引っぱたかれた。

さすがにこれには私も怒りがこみ上げて、ついボソッと声が出てしまう。


「こっちの話も聞かずに一方的に……」

「は!? なんですって!? 聞・こ・え・な・い!」


そう言って今度は髪の毛を引っ張られた。

先程引っ込んだ影があった部屋が再び目に入る。

その部屋に向かって今いる食堂から螺旋階段が伸びている。


そこは1週間前に視聴率トップを取った番組の関係者だけが入ることが出来る特別な食堂だ。


そういえば、及川さんの番組の1つが先週の視聴率1位だった気がする。


その時、誰かがそーっと顔を覗かせて私を見た。

及川さんだと、すぐにわかった。

目が合うと急いで顔を引っ込める及川さん。


「ムカつく」

「は?」


私は奥さんの手を振りほどいた。


「何すんのよ!」

「それはこっちのセリフです!」


私が反撃してきたことに一瞬だけ怯んだ奥さん。

私は目の前にあった、まだ口をつけていないオレンジジュースのグラスを手に持った。

奥さんは、かけられると思ったのか、顔を防ぐ動きをする。

私はその隙を狙ってジュースを持ったまま、螺旋階段をかけ上がった。

目の前に私がいないことに気が付いた奥さんは慌てて後を追ってきた。


「まだ話は終わってないわよ!」
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