彼は意地悪なボイスアクター〜独占欲の強い彼に溺愛され狂いそうです〜
残りの仕事を片付けていると那原さんがやってきた。


「せっかく助けてあげたのに、そっけなくない?」

「助けて頂きありがとうございます」

「そうじゃなくてさ~」

「入ってこないでください。部外者ですよね」

「なんで怒ってるの?」

「別に怒ってません」


なぜだか、わからないが先程から私はイライラしている。


「変なの」


私は強くキーボードを叩いた。


「今日は何時に終わるの?」

「終わりません」

「はははっんなバカな」

「終電になります」

「大丈夫だよ、俺、車だから」


本当にこの人と話しているとペースが乱される。
すると目の前にリーガル様のキーホルダーをぶらさげられた。


「あ」


私が取ろうとするがさっとかわされる。


「やっぱりまだ欲しいんじゃん」

「私のなので」

「まだ返さない」

「もういいです」


すると那原さんが黙ってしまい、静かになった。
私は仕事のために手を動かしてはいたが全く集中できていない。


「昨日はありがとう」

「え?」


顔をあげると那原さんは後ろ手に手を振って部屋を出て行くところだった。
素直にお礼を言われてなんだか拍子抜けした。

「じゃあ」

帰ってしまう。
そんな寂しさが襲った。

「あの!」

何故か呼び止めてしまう。
私は自分が言おうとしていることに信じられない気持ちだった。
振り返った那原さんに向かって私はとんでもない提案をした。

「今日も一緒に居ましょうか?」

黙ってしまう那原さん。沈黙の時間がすごく長く感じた。

「ありがとう、でも大丈夫」

そう言って那原さんは立ち去った。
断られた……
拒否されてショックを受けている自分がいた。
恥ずかしい。
次に襲ってきた感情はそれだった。
まさに汗顔の至り。
私は震える手で、その日は終電が無くなる時間まで働いた。
< 50 / 50 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:6

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop