彼は意地悪なボイスアクター〜独占欲の強い彼に溺愛され狂いそうです〜
後ろから掴みかかられそうになったが無視して螺旋階段を上がっていった。

部屋の中に入ると、数名がこちらを見る。

その中に及川さんを見つけた。

「や、やぁ」

彼は呑気に私に手を振ってきた。

息切れしながらやってきた奥さんも彼を見つける。


「あなた!」

「ちょ、ちょちょ、落ちついて」


私はしどろもどろな及川さんめがけて、

バシャァァァ


顔面にオレンジジュースをぶっかけてやった。


「ちょっと!」


唖然とする奥さんに空のグラスを渡した。


「……あなた、もしかして彼が結婚してるの知らなかったの?」

「はい。でも知らなかったとはいえ、申し訳ございませんでした」

私は深く頭を下げた。

一刻も早くこの場から立ち去りたい。

そんなことを思ったその時だ。

「ふっ」

鼻で笑う男。

その男は部屋の中なのに、サングラスをしているので、顔がよく見えない。

(この人……今……笑った?)

私が信じられない思いで男を凝視していると顔を背け肩を震わせながら笑っているのがわかった。

「失礼w」

(なんなの、人の不幸を)

私は恥ずかしさと怒りで、顔がかぁっと熱くなるのがわかった。

逃げるように部屋を出て螺旋階段をかけ下りた。

その場にいた全員が私を見ている中、非常階段に向かって必死に走るが、途中で盛大に転んでしまう。

「いっ」

惨めで恥ずかしくて、涙がじわっと出てきた。
私はすぐさま立ち上がり非常階段がある分厚い扉を開き、中へと逃げ込んだ。


「はあ、はあ」


こんなタイプの非常事態でも、あの緑の非常口マークに向かうんだなと余計なことを考えた。
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