彼は意地悪なボイスアクター〜独占欲の強い彼に溺愛され狂いそうです〜
私は声を殺して静かに同期たちが出て行くのを待った。
幸い、個室が多いトイレだったので、私がいることはバレていない様子だ。
彼女たちは用を足すわけでもなく、話を始めた。


「さっきのビックリじゃない?」

「ほんと! やばいっ! あんなの初めて見たよ」

「てかさ、あいつの顔みた!?」

「みたみたww」


(え……あいつって私のことだよね?)


私は彼女たちとそれなりに仲良くしているつもりだった。
まさか、影で『あいつ』なんて言われているとは思わなかった。
胸が苦しくなった。
ざわざわする。

(神様。もう充分、罰を受けています。これ以上、私を苦しめないでください。せめて今日じゃなくて明日にしてください。分散してくれたら耐えられます。今日はもう及川さんのことでいっぱい、いっぱいなんです)


しかし、そんな私の願いも空しく同期たちは話を続けた。


「入社式で挨拶とかしちゃってさ。新卒代表? なんか、うちらのことバカにしてる感じで嫌いだったんだよね」


(そんな……)



「わかる!しかもさ、清純ぶってさ!及川さんに取り入ったのもあいつの方でしょ?絶対!」

「だよね。及川さんがそんなことするはずないし、あんなブス、本気で相手にするわけないし」

私は怒りより恐怖で手が震えた。
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