落ちこぼれの魔女なので、モフモフになって憧れの騎士様に飼われることにしました。
<6>
「アリソンさんっ! ちょっ、あの!」
あっという間にベッドに引きずりこまれた私は、両手首を掴まれて、腕を上にあげる形でどすんとベッドのうえに押し倒されてしまった。
目の前にあるのは、焦点がいまいち合ってなさそうなアリソンの青い瞳と、眼下に影を作る長い睫毛。形の良い唇は、荒く息を吐き出していた。
彼の生温かい息が肌に当たり、全身から汗がぶわっと噴き出した。
──嘘おおお~~……‼︎
裸でベッドに押し倒される。これを意味する行為は、モテない魔女だった私でも知っていた。アリソンはまだ若い男の人だ。特定の相手はおらず、娼館へ通う習慣もない。そして私のことが好き。と、言うことは。
「……ハロルさん、やっと夢に出てきてくれたんだね」
アリソンのなかで、私は崖から落ちて死んだことになっている。彼は死んだ思い人の淫夢を見ているつもりなのだろう。
──紛れもない現実だけど。
若い男の人は好きな女を好き勝手する夢を見るものらしい。男の夢の中では、どんな女も従順でいるものだと俗学の本で読んだことがある。
──こ、これは、受け入れなきゃダメよね!
実は男女の性愛に並々ならぬ興味があった私は、あっさりアリソンを受け入れることにした。
それに彼が完全に覚醒したら、もしかしたらフラれるかもしれない。
わざわざ宝石獣に変身してまで、人が悲しんでいる姿を見て喜ぶ変態だと勘違いされるかもしれないからだ。いや、そんな勘違いをされなくても、私は落ちこぼれの残念な魔女。フラれる原因はそこいらにあった。
魔女なのに、魔力が枯渇して元の姿に戻れないなんて本来ならありえないことだ。
どうせフラれるのなら、最後に思い出が欲しかった。
──……フラれるかどうかはまだ分からないけどね!
すぐに考えが後ろ向きになってしまう。ダメだダメだと、一度ぎゅっと目を閉じた。
前向きに、前向きに……。私は変わると決めたのだ。
「アリソンさん……。私、アリソンさんのことがずっと好きだったんです」
──言ったーー!
瞳を潤ませて、ほんの少しだけ恋人気分でアリソンのことを見上げる。これは彼の夢だ。彼は私のことが好きだ。当然、彼は私からの愛の告白を望んでいるだろう。そういうものだろう。
アリソンは夢を見ている。そう思ったら、自然と素直な言葉がすらすら出た。生まれてはじめて口にした愛の告白。
どうしてだろう、人に好意を伝えただけで嬉しい気持ちになるのは。胸があたたかくなって、涙が出そうになるのは。
アリソンがたくさん、私への想いを語ってくれたから、自分も伝えてみたくなったのもある。
誰かに好意を伝えたい、そう思ったのははじめてだった。今までは、誰かのことをいいなと思っていても、それを隠すことばかり考えていた。恋をしても、苦しいばかりで嬉しいなんて少しも思わなかったのに。
「ハロルさん……」
私の告白を聞き、私の名前をつぶやく彼は実に嬉しそうだった。手首をぐっと掴んでいた手はゆるゆると緩められ、顔の輪郭をそろりと撫でられる。
受け入れて貰えたのだと感じ、胸がいっぱいになった。
顔や首元を撫でられるのが心地がよくて、目蓋を閉じたら、そっと唇を重ねられた。
「……んっ」
落ち着く感触だった。触れるだけの口づけを数回繰り返し、私が軽く口を開けたところで遠慮がちに舌を差し込まれた。やわらかなところを少しざらつく舌で撫でられると、これがびっくりするほど気持ち良かった。
息がしにくいのは苦しいが、今は夢見心地だからか気にならない。頭の奥が熱くなってきた。
アリソンはこれは夢だと思っている。
乱暴にされる覚悟もしていたが、それは杞憂だった。
私に触れる手つきは何もかも優しかった。私が宝石獣だった時と変わらない。
──すっかり思考がペットになってるな……。
せっかく大好きなアリソンに触られているというのに、気がそれてしまった。
顔の輪郭に触れられていた手が、そろりと下へさがっていく。むきだしになった肩や鎖骨を這い、やがてそれは私の胸元へと到達した。
私の口内をゆっくりなぞっていた舌が、唇が、離れる。はじめてのキスが終わってしまうのだと思うと、名残惜しかった。
今度は脇に流れるたわわを、中心に寄せるように持ち上げてから、先端を口に含まれた。
温かい。アリソンの口内は心地よかった。舌の先を胸の尖りに押し当てられて、はじめてそこが固さを帯びてきたことを知る。
ちゅっと音を立てて吸われると、自然と腰が浮いた。
アリソンに胸を弄られていると、名状しがたい感情がふつふつと湧いてきた。敢えて例えるならば、母性に近い感覚かもしれない。彼を可愛いと思ったのだ。
オレンジに淡く光る手元灯に照らされて、きらきらと輝く彼の黄金の髪に触れた。見た感じは艶やかだが、触ると少し固い。
アリソンのことを愛おしく感じて、よしよしと頭を撫でると、何故か顔を上げられてムッとされてしまった。
「つたなくて、悪かったな」
「そんなの……」
ぶんぶんと首を横に振る。気持ちがよくて幸せな気分だったのに。お返しにと思ってアリソンの頭を撫でたのだ。
彼はむくりと起き上がると、私の脚の間に手をやった。いきなり敏感なところに触れられてびっくりした。
「えっ、え」
「ここもあんまり濡れてないし……」
「……っ」
股の間、下生えをかき分けて、アリソンの指が肉のあわいに触れた。自分でもあまり触ったことがない場所で、年に一回、ギルドの健康診断を受けた際に、女医から触診を受ける時ぐらいにしか開かれないところだ。
月の触りが来る場所に、指先が入れられている。
どの指を挿れられているのかは分からないが、違和感に腰が浮いた。探るような指の動きをされると、お腹の奥に時たま力が入った。むずむずするが、これが気持ちが良いことかどうかは分からない。
「すごい、狭い……」
挿れた指を、粘膜が擦れる音を出しながら出し入れされる。かろうじて痛くはないが、何だか性急な行為に感じられる。
こんなものだろうか? 私はこういう体験をしたことが無いのでよく分からない。
黙ったまま、何の反応もしない私に焦ったのか、アリソンは「気持ちよくない?」とお伺いを立ててきた。
「はじめてで、よく分からなくて」
「はっ、はじめて……⁉︎ 魔女なのに?」
「はい」
魔法で避妊が容易に出来る魔女は、一般女性よりもずっと安易に性行為をする。娼婦や要人の愛人をする魔女も多かった。
しかし落ちこぼれでたいして美人でもない私は、男の人から、まるでこの世に存在しないかのような扱いをされてきたので、当然性体験はなかった。男性にモテた経験もなかったので、王都で娼館勤めをする発想すらなかった。
「身体を撫でられたり、舐められたりするのは気持ちいいですけど」
「……ここを触られたり、挿れられたりするはイヤ?」
「い、嫌じゃないです!」
アリソンはひとつため息をつくと、秘部から指を引き抜いてしまった。私が生娘だから、興がのらないのだろうか。もう少し私も何か、気の利いたことが出来たら良かったのに。
かなしく思っていたら、アリソンのほうから謝ってきた。
「ごめん、ゆっくりする」
「ごめんなさい……」
彼は続ける気はあるようだ。
アリソンは上に羽織っていた綿のシャツを脱ぐと、今度は私の首すじに顔を埋めた。自分や彼の髪の毛が顔に触れてくすぐったい。彼の整髪剤のような爽やかな匂いを感じて、なんかこう、幸せだと思った。
私の感覚はまだ宝石獣だった時のものに引きずられているのか、髪や首すじに触れられると悦びを感じてしまうのだ。
アリソンの汗ばんだ肌に触れるのは心地よかった。盛り上がった肩や腕の筋肉は一見硬そうに見えるけど、こうして直で手で触れると柔らかいのだということも、はじめて知った。
宝石獣になって彼の肩に乗っていた時は、しっかりした地盤に感じられたのに。不思議だ。
「……ハロルの匂いがするな」
「えっ」
「宝石獣のお前が、ハロルさんに化けてくれたのか? 髪の毛の手触りが、ハロルそっくりだ」
鎖骨のあたりまで伸ばした、私の黒髪に触れながらアリソンは優しい口調で言った。
──いや、逆なんですけど。
魔女の私が、宝石獣に変身していたのだ。
何をどうしてそう思ったのか、アリソンは自分が拾った宝石獣が、私に変身したものだと勘違いしていた。
「昔読んだ童話みたいだ。……主人公である流浪中の騎士が、ある日、マクワ猪の罠にかかった黒い宝石獣を助けたんだ。三日間、騎士は献身的に宝石獣の世話をしたが、四日目の朝、看病していた宝石獣の姿が消えていたんだ」
「どうなったんですか……?」
「騎士は世話をしていた宝石獣がとつぜん消えて寂しく思ったが、彼は『宝石獣は元気になったんだな』と解釈して、また一人の生活に戻ったんだ。でも、五日目の朝。滞在していた家の戸口を叩く音がして、騎士が扉をあけると、そこにいたのは何と……」
「何と……?」
「騎士の死んだ妻にそっくりな女性が佇んでいたんだ」
「……」
「ま、戸口に立っていた女の人の正体は、助けた宝石獣だったんだけどな。宝石獣は恩返しに、その相手がいちばん会いたがっている人間に変身するんだ。ウチの地元では有名な童話で、『男やもめは宝石獣を飼え』なんていうことわざもある」
「どういう意味ですか?」
「男は一人だと早死にするからな。早逝防止にペットを飼えという意味らしい」
アリソンは嬉しいのか、悲しいのか、よく分からない顔をして、私の頭をわしゃわしゃ撫でた。
宝石獣は、自分を助けてくれた人の最愛の人に変身するモンスターだと、アリソンの地元ではそう信じられているらしい。
だから彼は宝石獣にこだわっていたのかと納得した。
「……でも、さすがに宝石獣相手に最後までしてしまうのは、まずいよな。童話では、騎士と人間に変身した宝石獣は結婚してたけど」
「逆っ! 逆です!」
「逆?」
「私が、人間のハロルが、宝石獣に変身していたんです! ……が、崖から落ちて、このままだと確実に助からないと思って、私はとっさに宝石獣に変身しました!」
「……は?」
「あなたが教えてくれたんです。宝石獣はとても柔軟だから、お城の天辺から落ちても平然としていると。あなたの知識のおかげで、あなたが私を拾ってくれたおかげで、私はっ、助かりました! 私は何か……あなたに、アリソンさんに恩返しがしたいんです!」
「ハロル……さん」
「お願いだから、このまま最後までしてくださいっ……!」
はたして身体を開くことが恩返しになるのかどうかは分からないけど。アリソンは黙ったまま、シミを作っていた下履きを脱いだ。どうやら彼は私の言葉を受け入れてくれたようだ。
怖くないと言ったら嘘になる。今まで男を受け入れたことがない場所に、丸い熱杭の先を押し当てられた時は、身体を貫かれる恐怖で震えた。
こんな、やっと指が入るような狭い場所に、指よりもずっと太くて長いものを挿れられて、裂けやしないかとビクビクした。
女は出産する生き物だということは常識として知っているが、男っ気のない生活を送りすぎて、今までぜんぜん意識や覚悟をしてこなかったのだ。
一生、性や恋の喜びを一切知らぬまま、清らかな身体で死んでいくものだと、別の覚悟はしていたけれど。
私が身体を固くしているのを見かねて、アリソンは下生えに埋もれた陰核を触ってくれたけど、痛みに近いようなびりびりした刺激を感じるだけで、気持ちよくはなれなかった。
それでも、濃色に染まった花びらのような秘裂の表面を、ぬめる熱杭の先で擦られているうちに、太い先が少しだけ蜜口に埋まった。
──~~……お、お腹がぁ‼︎
今までに感じたことのない圧迫感で頭のなかはパニックになった。皆、本当にこんな行為をしているのだろうか? 少し挿れられただけで内臓が押し上げられるような感覚がした。
「……うぅっ」
未知の感覚にぎゅっと瞼を閉じていると、ヒダのように重なりあっていた媚肉が、メリメリと押し広げられていくのを感じた。不思議だった。ここに空洞があることは知識として知っていたけど、今日まで意識したことは無かったから。
雁首のようなところがすべて入ってしまえば後はスムーズだった。普通の人間の女のように膜がない魔女の隘路は、するりとアリソンの昂りをすべて咥えこんだ。途中で出っ張りのひっかかりを感じて、またびくりと腰が浮いた。
──や、やばい。
焦りで額からひとすじの汗が流れた。これはあそこがキツいからではない。別の意味で私は焦っていた。
アリソンの肉杭の先っぽが、何か透明な液でしとど濡れていたことは分かっていたが、それが作用しているのか、下腹の奥を伝って全身に魔力がどくどく流れてくる気配を感じたのだ。
私はアリソンの涙から魔力を摂取して元の姿へと戻った。自然回復では三日かかるところを、一日で回復できた。
一体何が言いたいのかと言うと、アリソンの魔力たっぷりの体液を、直に粘膜で受けているこの状態はとってもヤバいということだ。
彼の魔力は特濃だった。涙とは比べものにならないぐらい、肉杭の先からほとばしるものの魔力は濃かった。
焦りと、全身を駆け巡る魔力の作用とで、汗が止まらなくなってきた。
端的に言うと、まずいことは二つあった。
ひとつは、アリソンから強い魔力(体液)を受けて、元の魔力が脆弱な私がどうにかなってしまうのではないか? という懸念と、もうひとつは、避妊が出来ないのではないか? という可能性だ。
魔女は魔法の力で膣内にバリアを張ることで避妊が出来るが、相手も魔力をもっていて、なおかつ相手の方が高い魔力を持っていると、相手の魔力を受け止めきれず、避妊のバリアが破られてしまうことがある。
特に二つ目のまずいことは洒落にならない。彼は嫡子ではないとはいえ、貴族の子弟である。魔女と子どもを成す貴族はいなくもないが、彼の家がどう考えるかは分からない。
「どうしよう、アリソンさん」
「どうした? ……苦しいか? 痛いか?」
「そうじゃなくて。アリソンさんの魔力が強すぎて、このままじゃ私の避妊が失敗しそうなんですけど」
「うん? このまま結婚するから何も問題ないだろう? 俺は子育ては未経験だけど、父親教室にもちゃんと通って育休も取って、ハロルさんには丸投げしないから。 安心しろ!」
──違う! そうじゃない!
アリソンはどうも考えが飛躍するところがある。彼はすでに私と結婚するつもりでいるし、この行為で子どもが出来ると考えているし、なんなら主体的に子どもを育てていこうとまで考えていた。
ある意味、簡単に身体を許してはいけない相手だった。
彼は色々な意味で重たい男だった。
「それにもう、我慢できそうにない」
「えっ、ちょっと」
「ハロルさんのなかが、あったかくてキツくて……っぅ」
ちょっと腰を動かしただけで、なんとアリソンは私のなかで果ててしまった。
私のなかでびくびくと跳ね回る肉杭、どくどくと胎へと注がれる精液と魔力。そのあまりの魔力の濃さに言葉を失った。月の障りとは違う、熱い液体が胎のなかでじわりと広がった。
お腹の奥から太もも・足先へと、今までに感じたことがない強力な魔力が流れて、肌は粟立ち、腰ががくがく震えた。ぎゅっと閉じた瞼の裏に白い星が散った。
未知なる感覚に、途中から目を見開いて、ただただ打ち震えることしか出来なかった。
「……」
「しばらく自分でも処理してなくて、濃いかもしれない……」
──こ、濃いなんてもんじゃない!
私の魔力の器から、アリソンから与えられたものが、どんどん溢れていくのを感じた。
嫌などころか多幸感がすごくて。思わず口を手で覆ってしまった。油断していると笑い出してしまいそうだ。
なんだろう、この達成感に似た感覚は。胸の奥から広がる充実感がとにかく凄かった。
ガチガチに固まった身体を、マッサージしてもらった感覚に似ているかもしれない。凝り固まったものが、柔らかくなっていくあの開放感。
「い、嫌だったか?」
「嫌じゃないです! すごく良かったから、あの、もっと下さい……!」
もう勝手におねだりの言葉が口から出た。下腹も特に力を入れなくても、アリソンのものをぎゅうぎゅう締め付けている。
これはダメだ。ハマってしまったかもしれない。
「ありがとう、ハロルさん。俺はたくさん働くし、育てるから、ぜひ何人でも孕んでくれ!」
「まずは一人でいいですぅ!」
──いぎゃぁあぁぁ~……!
声にならない、心の悲鳴が止められない。下腹の最奥に、激ったものをぐりぐり擦り付けられて……。これがもう、堪えきれないほど気持ちが良かった。粘膜を擦られれば擦られるほど最奥は疼き、私はアリソンの腰に縋り付いた。
下腹に急激に力が入り、絶頂というものをはじめて迎えてしまった。背中を弓なりに反らせながら、私は叫んだ。
私の隘路は先ほどまでなかなか濡れなかったことが嘘のように、まるで粗相をした後のように濡れそぼっている。媚肉が重なるようになっていた隘路には、すでに熱く潤む道が出来ていた。
ぬかるみを歩くような音を立てながら、アリソンは私の奥を貫いた。何度も、何度も。
何かの火がついてしまったのか、彼の腰の動きは容赦がなく、私の背中に両腕を回してまで、もっと奥を貫こうとした。
全身汗やら体液やらでお互いびしょびしょだった、ずぶ濡れになりながらお互いの身体を貪った。
私の身体から与えられる魔力なんかとても僅かだろうに、アリソンは出来るだけ長く私のなかに居たがった。彼は苦しそうな顔をして、吐精を我慢していた。気持ちが良すぎると言い、困ったように笑っていた。
こんなにも激しく、誰かから私自身を求められたことは今までに無い。膣奥に欲を吐き出されるたびに、空っぽだった自己肯定感の器が埋まっていく。
ようやく行為が終わった時、すっかり外は明るくなっていた。
私たちはほぼ一晩中繋がっていたのである。