落ちこぼれの魔女なので、モフモフになって憧れの騎士様に飼われることにしました。
後日談2
「いやぁ、良い風呂だった!」
頭にタオルを乗せたアリソンは、肩からほこほこ湯気を出している。息子にお水を飲ませながら上機嫌だ。
「もう食べられるわよ」
「やったぁ! トマトのシチューだ!」
キャッキャと声をあげながら息子は椅子に座る。
「もう食器とか、テーブルに置いても大丈夫か?」
「ええ」
アリソンは慣れた手つきでカップボードから皿と食器を取り出すと、クロスが敷かれたテーブルに並べていく。白い粉がふいた固い黒パンに長細い包丁をざくざく入れて、切り分けてくれた。
「ハーティ、パンにチーズを乗せるか?」
「チーズはシチューに入れたいなぁ」
何をどうやって食べるのか、和気あいあいとしている二人を見るのは楽しい。アリソンはたまに帰ってきても率先して動いてくれるので助かる。今回も騎士団の支給品を色々持って帰ってきてくれたようで、彼の背嚢はぱんぱんだった。
「いただきます」
「いただきまぁす!」
テーブルの上には湯気がたつトマトのシチューと、薄切りしたパン、それにチーズが並ぶ。けして豪華ではないけれど、家族がそろって囲む食卓はそれだけでご馳走になる。
「おいしい!」
ハーティも両親が揃っていて嬉しいのだろう。いつもは食が細い息子だが、今夜はもりもり食べていた。
毎日こんな夕食のひと時を過ごせたら……と思うが、アリソンは家族のために王城で働いてくれているし、ハーティも自分の夢を叶えるために私の元から出て行く。寂しいとは言えなかった。
「そうだ、二人とも」
私がシチューの上に浮いたトマトをスプーンの先でつついていると、アリソンの声がした。
「来年から、家族みんなで暮らさないか?」
アリソンの提案に、ぱちぱちと瞬きする。一瞬、耳を疑ってしまった。願ってもない提案だったからだ。
「おかあさんも一緒に?」
「ああ、もちろんだ」
「やったぁ!」
「でも、私は魔女だから、王城敷地内には暮らせないわよ? それにあなたは王宮付きの騎士でしょう? 王城敷地外では暮らせないんじゃ……」
「それなんだけど、城門警備に異動しようと思う。ちょうど来年枠が空きそうなんだよ」
ハーティは来年から王城敷地内にある魔導学校に入る予定だが、特待生扱いなので授業料自体は無償だ。今よりもお金が掛からなくなるので、アリソンが高給である王宮騎士を続ける必要はない。
「ハロルさえよれば、ここを引き払おう」
「そうねえ」
家族三人で暮らせるような、王城の近くのアパートの家賃が気になるところだが、たぶん騎士団から補助は出るだろう。それに王城近隣なら仕事もたくさんありそうだ。共働きすれば、皆で暮らすことだって出来るはずだ。
「うん、いいわよ」
「やったぁ! これからは皆で暮らせるんだぁ!」
「おい、来年からだぞ、ハーティ!」
家族みんなで暮らせたら、と思っていたが、同時に、ここでの生活も気に入っていたんだよなぁという考えも頭に浮かんでしまう。私は基本、環境をあまり変えたくないモノグサな魔女なのだ。でも、皆一緒に暮らせるのは嬉しい。今から色々考えておかなければ。
「そうと決まれば、今から情報収集しなきゃね。市場と公園が近いファミリー向けの賃貸を探さなきゃ」
「それ、大事だよなぁ。ハーティの学校の送り迎えは俺がするし」
心が浮かれると不思議と食事も美味しく感じた。今日のトマトのシチューはいつもよりも上手く出来たような気がする。
アリソンの異動が上手くいくかどうかまだ分からないのに、浮かれすぎるのも禁物だと思うが、まあ、今は前向きに考えよう!
<おわり>