『Special Edition③』

「どうだった?」
「……線が出てます」
「え?」
「だから、線が出てるんですよっ!!」

 白杜は茜が握りしめているものを見せて貰い、トイレの中に置きっぱなしの箱を取りに行く。

「おおおおおっ、マジかぁ~~ッ?!!」

 トイレの個室の中で、1人発狂する白杜。
 俯瞰して見たら、おかしな構図だけれど、そんなことは気にしていられない。

 慌ててトイレから飛び出して来た白杜は、腰が抜けた状態の茜を優しく両腕で包み込んだ。

「明日、病院に行こうな」
「……はい」

 二人の手の中に握られているのは、ピンクの線が二本浮かび上がっている妊娠検査薬。
 陽性反応だと、ピンクの線が二本出るタイプのもの。

 妊娠検査薬で陽性反応が出ていると、かなりの確率で妊娠していることが多い。
 
 手術をしたばかりだから、期待なんてしてなかったけれど。
 急に現実味を帯びて、茜はここ数日のことを思い返していた。

「眠いのも怠いのも、妊娠してるからなんですかね?」
「……だろうな」
「珈琲の香りが違う風に感じたのも?」
「だと思う」
「なんだか、急に実感が湧いてきました」
「酒とカフェインは暫く控えないとな」
「白杜さんは別に控えなくても」
「目の前で美味しそうに飲んでたら、絶対腹が立つぞ」
「……フフッ、じゃあ一緒に暫くノンアルにノンカフェですね」
「おぉ」

 まだ妊娠していると診断されたわけではないけれど、もしそうだとするなら……。
 今日という日も控えなければならないから。

 白杜さんは愛用のグラスを棚の奥にしまい込んで、封印した。
 そこまで徹底しなくてもいいのに。

「男の子かな~、女の子かな~?名前候補も考えないとな」
「……せっかちすぎますよっ」

 彼は早速スマホで検索し始めた。
 妊娠してるかもまだ分からないのに、名前まで考えるだなんて。
 だけど、こうして赤ちゃんを望んでくれているということ自体が、私をより幸せにしてくれる。

 普段はクールな人なのに。
 パパになったらデレパパ決定だよ。

~FIN~
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