『Special Edition③』
桐生組は、昔ながらのアコギな商売はしていない。
それこそ、みかじめ料だの吸い上げだの、未だに古臭い考えでシマを荒らす連中を厳しく見張っている組織だ。
悪に手を染めて筋者になってしまった連中を、またカタギに戻してやることをモットーとしている。
だから、警察にも一目置かれているのだ。
*
仁と小春を乗せた桐生組の車は、仁の自宅近くにあるバッティングセンターの駐車場に到着した。
「小春、何賭ける?」
「……うーん、そうだなぁ」
いつものやり取り。
幼い頃から組の三下(若い衆)の奴らと、腹ごなしにいつもバッティングセンターを訪れている。
運動神経が抜群の俺が手取り足取り教えたおかげで、小春はこのバッティングセンターでホームランを何度も出している。
もちろん、俺も。
俺は右投げ右打ちだが、小春にハンデを与えるために左打ちのみ。
20球でどちらが多くヒットが打てるか。
ホームランになれば、1本で5ヒット分に相当する。
「じゃあ、私が勝ったら1日ネズミーランドデートで」
「…………え?」
「仁くんが勝ったら、何して欲しい?」
いやいや、それ、罰ゲームじゃなくて、ご褒美になってんぞ。
「……そうだな。じゃあ、俺が勝ったら温泉旅行で」
「えええぇ~、それじゃあ、負けても嬉しいやつだよ~」
だから、いつも言ってんじゃん。
もっと困るようなことを強請れって。
「とりあえず、ご褒美は勝ってから決めるってことにする」
「……だな」
「絶対勝ってやるんだから」
鉄に目配せして、硬化を機械に投入して貰う。