『Special Edition③』

 桐生組は、昔ながらのアコギ(悪どい)な商売はしていない。
 それこそ、みかじめ料(ショバ代)だの吸い上げ(上納金)だの、未だに古臭い考えでシマ(縄張り)を荒らす連中を厳しく見張っている組織だ。

 悪に手を染めて筋者(やくざ)になってしまった連中を、またカタギ(一般人)に戻してやることをモットーとしている。
 だから、警察にも一目置かれているのだ。



 仁と小春を乗せた桐生組の車は、仁の自宅近くにあるバッティングセンターの駐車場に到着した。

「小春、何賭ける?」
「……うーん、そうだなぁ」

 いつものやり取り。
 幼い頃から組の三下(若い衆)の奴らと、腹ごなしにいつもバッティングセンターを訪れている。

 運動神経が抜群の俺が手取り足取り教えたおかげで、小春はこのバッティングセンターでホームランを何度も出している。
 もちろん、俺も。

 俺は右投げ右打ちだが、小春にハンデを与えるために左打ちのみ。
 20球でどちらが多くヒットが打てるか。
 ホームランになれば、1本で5ヒット分に相当する。

「じゃあ、私が勝ったら1日ネズミーランドデートで」
「…………え?」
「仁くんが勝ったら、何して欲しい?」

 いやいや、それ、罰ゲームじゃなくて、ご褒美になってんぞ。

「……そうだな。じゃあ、俺が勝ったら温泉旅行で」
「えええぇ~、それじゃあ、負けても嬉しいやつだよ~」

 だから、いつも言ってんじゃん。
 もっと困るようなことを強請れって。

「とりあえず、ご褒美は勝ってから決めるってことにする」
「……だな」
「絶対勝ってやるんだから」

 鉄に目配せして、硬化を機械に投入して貰う。
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