『Special Edition③』
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「残念だったな」
「むぅぅぅっ」
「何、その顔」
「もう少し、手加減してくれたっていいのに」
「ハンデくれてやっただろ」
「キィィィ~~ッ」
「……ったく」

 右利きだけど、左打ちでホームランを出してしまい、小春に勝ってしまった。
 見た目はぽわんとしてるけれど、意外と気が強いところもあって、そこがまた魅力だったりするんだけど。

「じゃあ、球速上げてやるから」
「……左オンリーだよ?」
「あぁ」

 いつもは時速120㎞/h、高校球児並みの速さのボックスに入る。
 この球速のスライダーを打てるようになると、甲子園が見えると言われている。

 小春は気をよくしたのか、いつもの時速90㎞/hのボックスに入った。
 90km/hは、中高のソフトボールの球速よりやや早い。
 だから、女子でこれが打てれば相当なものだ。
 
 俺が小学生の頃からびっちりと教え込んだだけある。
 小春は次々と金属バットに当て、カキーンッと甲高い打撃音がその場に響く。

「小春、あと10㎝短く持ってみ」
「10㎝?」
「ん」

 俺のアドバイス通り、持つ位置を短めにして構えた小春。
 投球マシーンから繰り出された白球を捉え、バットを勢いよく振った、次の瞬間。
 カキーンッとクリーンヒット音を響かせ、打った球はボーンッと吊るされた的に見事に命中した。

「わぁぁ~~っ!見た、見た?!ホームランだよ~~♪」
「よかったな……って、次の球来んぞっ!」
「あっ、そうだった」

 久々のバッセンということもあってか、若干の振り遅れが見られた。
 それを解消するために、バットを短く持たせたのだ。

 敵に塩を送る行為だが、小春が喜ぶなら塩田ごとくれてやりたいくらいだ。
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