『Special Edition③』
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「ブツはどこだ」
「こっちです」

 小春を自宅に送り届けた足で向かった先は、朋から報告を受けた、とある場所。
 車から降りた俺は、鉄の後を追って建物の中へと。

「ご苦労」
「ごろさす」(ご苦労様ですの略)

 シキテン(見張り)させておいた朋に労いの言葉をかけ、フゥ~と息を吐く。

「残ってるのはこれだけか?」
「はい」
「……そうか」

 仁はポケットから財布を取り出し、1万円札を朋に手渡す。
 そして、顎でクイっと指示を出し、自身のYシャツの袖を捲り始めた。

「兄貴、店のもんに話して」
「ぁあ゛?」

 鉄の言葉に仁の片眉がぴくっと反応した。

「……すいやせん」

 両腕のYシャツの袖を捲り上げた仁は、首を回し、指をポキポキと鳴らし始めた。

「惚れた女への上納品(贈り物)に、己のタマ(真心)込めな、男が廃すたる」 
「さすが、兄貴っす」

 仁の口癖。
 
 ヤクザであろうが、なかろうが。
 惚れた女にくれる物には、指詰める覚悟でタマ込めろ。
 金で解決しようとする輩は、惚れた女の心を射止める資格すらねぇ。
 どんなに無様な姿になろうが、アコギ(悪どい)な真似したら桐生の名が泣く。

「若」
「入れろ」
「へい」

 仁は戻って来た朋に指示を出し、深呼吸した。
 そして――――。

「兄貴っ、……ぁぁああ~っ、兄貴ぃぃっ」
「あっ……あぁ~、……そこっすっ!あ゛ぁぁぁ~~」

 仁のすぐ横で声を張る、鉄と朋。
 仁の手が動く度に、発狂に似た声を漏らしている。

「グダグダグダグダ、お前らうるせぇーよっ!俺がいいって言うまで口塞いどけ!」
「すいやせんっ」
「へい!」
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